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なぜマツダのディーゼルエンジンはクリーンなのか?


マツダ絶好調の秘密はここにある!【7】

PRESIDENT Online スペシャル /PRESIDENT BOOKS

著者
ジャーナリスト 宮本喜一=文 2016年3月16日(水)




革新的なディーゼルエンジン開発のカギは、ディーゼルエンジンの弱点を完全に克服することにあった。つまり、排気ガスを清浄化し、騒音と振動を抑え込み、高速でも快適に走り、しかも価格も消費者の手の届く水準にまでおさえること。これまでのディーゼルエンジンの持っている弱点をことごとく覆す、そんなディーゼルエンジンの開発こそがカギだ。マツダの開発陣はこの問題をどう克服し、ディーゼルエンジン開発に取り組んだのか。
「マツダのディーゼルエンジンは排ガス不正の独VWとどこが違うのか?」(http://president.jp/articles/-/17515)の後編。


なぜクリーンディーゼルはいいことずくめなのか

 マツダの開発陣は従来の発想とは違った方向を向いていた。


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パワートレイン開発本部パワートレイン技術開発部長・寺沢保幸は次のように語っている。

「圧縮比を下げる、開発の目標はこれです。ディーゼルエンジンの基本は、燃料と空気をよく混ぜることであり、よく混ぜればそれだけ排気ガスの浄化性能が向上します。よく混ぜるためにはどうするか? 圧縮比を下げてやるのが有効な手段です。なぜなら、圧縮比を下げてやればそれだけ混合気がよく混じり合うための時間を長くできるからです」

寺沢は、このディーゼルエンジンの開発が始まった2006年当時、パワートレイン先行開発部の主幹を務めていた。そこで、低圧縮ディーゼルエンジンの実用化の可能性を調べる実験を行なったという。具体的には、最終的に限界値以下ではないかも思える14という低圧縮のディーゼルエンジンを製作。これを氷点下30度という非常に低い温度の空間に入れて動かしてみた。しかも燃料は国内ではなく海外で出回っている最も着火性が悪いと評価されている軽油を使用した。

「とにかく回りましたよ。動きました。回れば実用化の可能性があるということです。いける! ということです」


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マツダのディーゼルエンジン「SKYACTIV-D」

この時点でマツダの開発陣は、それまでのディーゼルエンジン開発の常識に真っ向から逆らう方針を立てることになった。つまり従来の「高性能を狙うためにいかに高圧縮を維持しながら、高圧縮に伴う排気ガスの問題を克服するか」という発想から離れ、「排気ガスの問題を大きく改善できる低圧縮化を図りながら、同時にいかにエンジンの出力向上を図るか」という真逆の発想をもとに開発に取り組むことになった。

 ディーゼルエンジンを燃焼させるには、点火プラグを使うガソリンエンジンと違い、シリンダー内の混合気を圧縮し燃料(軽油)自体に自己着火を起こさせる必要がある。圧縮比が低すぎると自己着火しないため、マツダのエンジニアは自己着火しない圧縮比の下限を探った。その結果、製品化可能な数字は14と決めた。

寺沢が言うように、ディーゼルエンジンの燃焼の基本は、空気(酸素)と燃料(軽油)をよく混ぜることだ。低圧縮化によって両者の混じり合う時間が長くなり燃焼効率が向上し、排気ガス中のNOxとPMの発生も減少する。その結果、マツダは、NOxの浄化装置の廃止に成功した。これによって、他社のディーゼルエンジンに必要な浄化装置の維持が不要となり、エンジン重量の軽量化にも寄与、さらにはコストダウンにも貢献するというさまざまな効果が生まれた。(図1参照)

低圧縮化はエンジンの重量を軽くできる

排気ガス浄化に大きな効果を発揮する低圧縮化を狙うのはひとつの考え方だとしても、出力の向上を図ろうとする高圧縮化と比較すると、乗用車としての商品性に直結する動力性能が不利になる可能性を否定できない、というのがこれまでの常識だ。

「しかし」と寺沢は続ける。

「高圧縮の場合、爆発燃焼させる時機を上死点から少し遅らせなければならず、そうなると低圧縮の場合と比較して必ずしも熱効率が高いとは言えないのです」

高圧縮の場合、上死点(ピストンが往復するときの最上位置)付近で燃料を噴射すると、燃焼の速度が速いために空気と燃料がムラなく混じる前に自己着火を起こす。つまりこの場合、必ずしも燃焼効率がよくないのだ。したがって、混合気が均一に混じる時間を稼ぐために、ピストンが上死点から少し下がったところに来るまで着火する時機を遅らせるのが一般的な手法になっている。逆に表現すれば、設計図上の圧縮比は高くても、実際に燃焼エネルギーが発生する膨張のプロセスがこの圧縮のプロセスと同一ではないことになる。つまり、気筒内部の圧縮の比率(一般的には16から18)が、実際にエネルギーを発生させる膨張比と一致しない。膨張比の値は設計上の圧縮比の値よりも小さくなる。したがってその分、期待できる熱効率は低下する。


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 これに対してマツダのディーゼルエンジンの場合は、低い圧縮比のおかげですでに述べたように混合気がよく混じり合うため、上死点で着火・燃焼を始められる。つまり、圧縮のプロセスと膨張のプロセスが一致するために圧縮比と膨張比の数値も同一となり、燃焼の効率に優れ高い出力が得られるのだ。(図2参照)

このように、低圧縮化は、NOxの発生を低減できるほかに、実はもうひとつ利点がある。エンジンそのものの重量を軽くできることだ。従来の高圧縮率のディーゼルエンジンでは、構造に高い強度が必要なことからシリンダーブロックは鋳鉄製が常識になっていた。低圧縮化すれば軽量のアルミが使える。エンジン本体の軽量化は、回転数の上限を引き上げ、さらには乗用車そのものの運動性能向上にも寄与する。

低圧縮化によって、マツダが最終的に製品化した2.2リッターエンジン(2012年に発売されたCX-5に搭載)の場合、シリンダー内部の燃焼時の最高燃焼圧力が従来の175bar(約177気圧)から135bar(約137気圧)に下げられたため、エンジンの構成部品・構造材に対する荷重が大幅に減少した。従来鋳鉄製だったシリンダーブロックはガソリンエンジン並みにアルミ製になる。またエンジン本体内部の機械抵抗が小さくなったため、エンジンそのものの重量も減少、とりわけ回転する部品の軽量化も顕著になった。

 なかでも、ピストンの上下運動を回転運動に変換する役割を持つクランクシャフトの直径が従来の61ミリから52ミリと小さく細くなり、ピストン1個の重量も570グラムから460グラムへと軽くなった。寺沢によれば、回転系の機械損失がエンジンの抵抗・損失全体の半分を占めるという。したがって、この重量削減によって、低圧縮化ディーゼルエンジンの機械抵抗の値は、従来の同社のガソリンエンジン並みにまで低下した。

革新的な開発のカギは意識改革にある

この回転部品の軽量化と機械抵抗の減少は、さらに、従来のディーゼルエンジン以上の高回転を可能にする。従来は毎分4000回転程度だったものが、5000回転以上にまで上昇させられるため、高速走行でも軽快な運転感覚が得られるようになった。つまり、従来の“高速域が苦手”というディーゼルエンジンの弱点の克服にもつながったのだ。

 ディーゼルエンジンの圧縮比14という低圧縮化に成功したことによって、マツダのエンジニアは、「動力性能の向上には高圧縮比の維持が必要、ただし高圧縮にすると環境性能の向上が困難になる」というディーゼルエンジン開発における常識的な二律背反の技術課題に一気に答えを出した。

ディーゼルエンジンの低圧縮化によって、以下の4つのメリットが生まれた。
(1)NOxの除去装置を文字通り“除去”、消費者の維持コストも同時に削減。
(2)エンジン本体の軽量化と同時に、(1)の除去装置の廃止に伴う一層の軽量化。
(3)(2)がもたらす全速度域における軽快な運転感覚。
(4)車両価格が高いというディーゼルエンジンの負のイメージを払拭。


このエンジンは、2014年9月に施行されたこれまでで最も厳格といわれているEUの排気ガス規制ユーロ6を、NOxの除去装置なしでクリアしている。これはマツダのエンジンだけにしかできない芸当だ。したがって、マツダに限っては、あのフォルクスワーゲンのようなスキャンダルが生まれる可能性は全くない。

さらに、今回の国土交通省の路上走行試験の関連で述べれば、これまでのような台上の排気ガス規制規準の認証だけではなく、実走行時の排気ガス規制規準を設けることが必要だ。それが真の意味で地球環境保護に資することにつながるし、さらには消費者の利益にもなるはずだ。逆に言えば、環境保護の観点から消費者はどんな乗用車を選ぶべきかをこれまで以上に考えるべきだろう。これは、排気ガス規制の数値だけではなく、燃料消費率の測定方法にも、台上の測定だけではなく、実走行時の燃料消費の計測も必要だということを示唆している。

 マツダのSKYACTIV技術を主導してきたマツダ常務執行役員の人見光夫は、開発における技術課題を克服するカギを握っていて、それを克服すれば関連する課題の多くが同時に解決する開発対象を、ボーリングにたとえて「一番ピン」と呼んでいる。“圧縮比14の達成”こそ、まさにこの一番ピンだった。これによって、動力性能の向上と排気ガス浄化性能の向上の両立が実現したと言ってよいだろう。

マツダのエンジニアがこの一番ピンを狙って開発に取り組んだプロセスは、もちろん簡単なものではなかった。2006年に着手してから、試作車をまとめあげそして走行試験で完成のメドがたつまでに、4年の歳月が必要だった。そして製品化にはさらに2年が費やされた。

今回の国土交通省による路上走行試験は、このマツダの開発活動がムダではなかったことを証明している。

こうしたマツダ独自のディーゼルエンジン開発にあたって、最大の難関は何だったのか? この質問に対して寺沢からの答えはこうだった。

「本当にそんな低圧縮のディーゼルがものになるのか? と疑ったエンジニアが社内にはたくさんいましたよ。無理もないと思います。それだけに、そうした既成の意識との戦いが最も厳しいでしたね」

革新的な開発のカギは、意識改革にある。

マツダのディーゼルエンジン、SKYACTIV-Dもその意識改革の産物のひとつだろう。

(文中敬称略)

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