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食と農

賞味期限切れ、いつまで食べても大丈夫?

学び直しの「消費期限と賞味期限」(後篇)

2012.08.31(Fri) 漆原 次郎 1975年生まれ。神奈川県出身。出版社で8年にわたり理工書の編集をしたあと、フリーランス記者に。科学誌や経済誌などに、医学・医療分野を含む科学技術関連の記事を寄稿。日本科学技術ジャーナリスト会議理事。著書に『日産 驚異の会議』(東洋経済新報社)、『原発と次世代エネルギーの未来がわかる本』(洋泉社)、『模倣品対策の新時代』(発明協会)など。


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食の安全に対して国民の関心が高まっている。今後、安全で美味しい食の供給国としての日本を考えた時にもこの問題は重要になる。食の安全の話題を中心に、食トレンド、食品マーケットなど、食にまつわる様々なテーマを取り上げる。

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 食品に表示されている「消費期限と賞味期限」を学び直すため、東京農業大学客員教授の徳江千代子さんに話を聞いている。徳江さんは、東京農業大学の前食品加工技術センター長で、『賞味期限がわかる本』などの著書を出している。

 前篇では「消費期限」は「おおむね5日以内の、超すと危ないことを意味する期限」であり、「賞味期限」は「製造メーカーが品質を確実に保証している期限」であるといったことを聞いた。そして、これらの期限を設定しているのは主に食品製造者だという。本当の期限よりも低く見積もる「安全係数」をかけるが、あまりにこの係数を厳しく設定するあまり、まだ食べられる食品も廃棄されてしまう現状があるようだ。

 後篇では、賞味期限後や開封後の食品の品質をいかに長く保つか、その知恵を徳江さんから聞くことにしたい。食品が劣化する要因と、その要因を減らすための知恵、さらに“食べられる・食べられない”を判断する感覚の大切さを語ってもらった。

「常温で保存」と書いてあったらどうする?


徳江千代子さん
徳江千代子さん

東京農業大学客員教授。博士(農芸化学)。前・東京農業大学応用生物科学部栄養科学科・食品機能開発学研究室教授。同大学の食品加工技術センター長も長年にわたり務めた。「食品の保蔵・加工における多様な食品機能」が現在の主な研究テーマ。著書に『賞味期限がわかる本』(宝島社、文庫も)『野菜がいちばん』(いしずえ)など多数。監修本に『野菜のストック便利帳』(大泉書店)など。

──後篇では、食品の消費期限や賞味期限との実際の付き合い方をお聞きします。消費期限にも賞味期限にも、保存方法に様々な表示がありますが、とりわけ消費者が知っておいた方がよいことはありますか?

徳江客員教授(以下、敬称略) 開封前の保存方法に「常温で保存」という表示があります。これは、摂氏15度から20度で温度変化の少ない場所に保存することを意味しています。例えば、日の当たらない廊下に置かれたトレイなどが当てはまりそうです。

 逆に、熱の発する電化製品や、火の出るガスレンジの近くなどは、温度変化が激しすぎるため、未開封でも開封後でも保存には適していません。

──他に、食品を保存する条件として「冷暗所」と書かれているものもあります。

徳江 冷暗所は、常温よりも温度の低い、つまり15度以下で、光の当たらない場所を指します。昔の日本の一軒家の台所は夏でもひんやりしていて、冷暗所にふさわしい場所でした。しかし、冷暖房完備の新しい住宅では、この条件に当てはまりません。冷蔵庫の野菜室が、冷暗所の条件に近いと言えます。

──「開封後はなるべくお早めにお食べ下さい」という表示もよく見かけます。どう考えればよいでしょうか?

徳江 「早めに」が、1日なのか、3日なのか、1週間なのかが分からないという点は、多くの方にとって問題になっていると思います。

 難しいのは、食品を買う人はたくさんいて、人により保存の知識や方法が異なるということです。パックの牛乳をコップに注いで飲む人もいれば、あけくちに口をつけてごくごく飲む人もいます。そこまで条件を分けて製造者が表示することはできないのです。

水分、酸素、酵素・・・劣化の要因は様々

──そもそも、なぜ日が経つと食品の品質は劣化していくのでしょうか?

徳江 食品には、劣化する要因がいろいろあります。具体的には、水分、酸素、光、温度、酵素、細菌やカビなどの微生物、それに昆虫やネズミなどの生物といったものです。

 「水分」について言えば、各食品の「水分活性」という指標が、劣化を考えるときの大切な要素となります。水分活性とは、微生物が自由に使える水がどのくらいその食品に入っているかを0.00から1.00までの数値にしたものです。

食品と微生物が生育可能な水分活性の各値


食品と微生物が生育可能な水分活性の各値。微生物の方は下限値。ほとんどの細菌が0.90以下では生育できないが、高い塩分(低い水分活性)で育成できる好塩球菌も存在する。食中毒の原因菌にもなることから注意は必要。 (徳江客員教授の提供資料を参考に筆者作成)


 0.95を超える食品には、サルモネラ菌やボツリヌス菌などの食中毒をもたらす細菌が繁殖しやすくなります。生鮮野菜、肉、魚などの水分活性は0.98~0.99なので、これらの細菌の繁殖しやすい値より高いのです。

 水分活性が0.90あたりですと、食品に微生物がつきづらくなります。ベーコンは0.89、ジャムは0.82。さらに、キャンディーは0.57、ビスケットは0.33となり、水分活性は低くなります。日本の干物などの伝統食も、水分活性が0.85から0.65の低いものが多く、冷蔵庫がない時代に食べ続けられたことを裏づけています。

 「酸素」も食品を劣化させる大きな要因となります。カビなどの微生物は、空気中にたくさん存在しており、これが食品に付着していくからです。

 また、「酵素」も食品を劣化させる要因です。生き生きとした野菜からは酵素が出続けますし、また、魚介類の内臓などにも酵素はたくさんあります。

要因を取り除けば長く保存できる

──前篇の話では、「賞味期限」は、開封前のものを指示通りに保存するという前提のもと、「製造メーカーが品質を確実に保証している期限」とのことでした。賞味期限が切れた食品、それに期限前でも開封した食品が、いつまで食べられるのかは身近ながら難しい問題です。

徳江 以前は賞味期限が切れたらすぐに捨ててしまう人が多くおりましたが、『賞味期限がわかる本』などの本を出したり、あちこちで講演をしたりして、だいぶ「賞味期限が切れてもまだ大丈夫だ」という考えが浸透してきています。

 では、賞味期限が切れた後や、開封をした後の食品を、どのように保存して、いつまで食べるか。それは、それぞれの方の知恵や感性の問題になってくるわけです。

──食品を長持ちさせる知恵には、どのようなものがありますか?

徳江 先ほど挙げたような、食品の劣化をもたらす要因を、できるだけ取り除くようにすることが、食品を保存する上では大切になります。

 例えば、水分を少なくし、酸素も食品から遠ざけるようにすれば、微生物が働きにくくなりますから、食品の保存性は保たれます。買ってきた生鮮野菜、肉、魚などをペーパータオルで拭いて、さらにラップに包んで冷蔵庫にしまうと、食品によっては何日も長く保存できるようになります。

 私も、10枚1セットなどで売っている大葉を買ったときは、水できれいに洗ってからペーパータオルで水分を取り、1枚ずつラップして冷蔵庫に入れるようにしています。これからお話しする日数はあくまでも目安ですが、2~3日で痛んで黒くなるところが、1週間は保つようになります。

 また、生の野菜には劣化の要因の酵素が含まれていますが、さっと湯がけば酵素はなくなっていきます。それを冷凍保存すれば、単に冷蔵庫に野菜をそのまま入れるよりも長持ちします。

 丸ごと買った魚も、すぐに食べないのであれば、内臓を切り落として3枚おろしなどにしてから、水気を取ってラップでくるみ、冷凍庫に入れると日持ちします。

賞味期限後でも「違和感」がなければ大丈夫

──もう1つ、食べる人自身の感覚も大切ということですが。

徳江 ええ。講演会で来場のみなさんとお話をすることがありますが、お母さんと娘さんが「賞味期限から5年が過ぎたズワイガニの缶詰を食べたのですが、2人とも大丈夫でした」とおっしゃっていました。

 よく、「賞味期限からだいぶ過ぎた缶詰を食べても大丈夫ですか」と質問をいただきますが、「開けてみて、大丈夫という実感があれば、食べても大丈夫なのではないでしょうか」と答えています。

──大丈夫かどうかの判断をどのようにすればよいのでしょうか?

徳江 私がしているのは、臭いを嗅いだり、少しだけ食べてみたりして、少しでも違和感を覚えれば食べるのをやめ、違和感がなければ食べる、といった判断です。みなさんも同じように、臭いを嗅ぐなどして、いままでとちょっと違うなとお感じになったら食べないようにするといったことでご判断されたらよいと思います。

 賞味期限後や、開封から何日経ったものまで食べるかどうかといった判断は、その人が感覚をよく働かせることが大切なのです。

──感覚をよく働かせるようにするには、どうすればよいのでしょうか?

徳江 1つの手は、自分で料理をしてみることです。それにより、“本物の味の変化”が五感として分かってくるからです。

 例えば、ポテトサラダを自分で作るとします。ポテトやにんじんを茹でて、冷ましてからハム、きゅうり、りんごなどを混ぜて、マヨネーズで和えます。作りたてを食べれば、ポテトの味がふわふわとして美味しいとご本人が自覚します。

 その後、自分で作ったサラダを2日目、3日目と食べていけば、「すこし水っぽくなったかな」「すこし食感が変わったかな」と、作りたてのときとの違和感に敏感に気付くことができます。

 実はポテトは、ポテトデキストロースという細菌の培地にもなるくらいで、微生物が繁殖しやすいのです。コンビニエンスストアなどで売られているポテトサラダでは、なるべく日保ちさせるためにお酢などの酸味料が入っていることが多く、はじめから酸っぱいのです。味の微妙な変化に気付きづらい面があります。

 目で見る、鼻で香りを嗅ぐ、舌で味わい、食感を確かめる、耳で歯ざわりの音を聴く。食べものがまだ食べられるかどうか、五感を使った判断を大切にしていただきたいと思います。

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JB Press



食べものの4分の1が食べずに捨てられる国

学び直しの「消費期限と賞味期限」(前篇)http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/35943?page=2

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