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発酵・醸造食品

ビジネス 特集“イギリス産日本酒”で挑む

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2016年8月25日 20時10分



和食ブームを通じて海外で日本の食文化への関心が高まる中、大阪市の酒造会社がイギリスで日本酒の生産に乗り出すことになりました。日本の会社がヨーロッパに醸造所を設けるのは初めてということですが、ヨーロッパでは食事にあわせる酒の主流はワインです。
なぜ、現地生産の場にイギリスを選んだのでしょうか。そして“イギリス発”の日本酒がワインの本場ヨーロッパで市場を開拓できるのでしょうか。(ロンドン支局 下村直人)


日本酒を世界に広めたい




「日本はウイスキーの醸造技術をイギリスから学び、世界で評価されるようになった。イギリスにも日本伝統の酒を浸透させ、イギリス発の新しい日本酒を世界に広げていくことが私たちの夢だ」

去年夏、大阪市の酒造会社「堂島麦酒醸造所」社長の橋本良英さんとイギリス法人社長で妻の清美さんを初めて取材した際、2人から聞いたことばです。
この会社は、ビールや日本酒の生産を手がける600年の歴史を持つ老舗の酒蔵です。橋本夫妻は、日本の酒造会社では初めてというヨーロッパでの日本酒の醸造所建設に挑戦する思いを情熱的に語ってくれました。

30ヘクタールの敷地で日本酒造り



醸造所を建設するのは、ロンドンから北東に電車で1時間余りのところにあるケンブリッジシャー州です。30ヘクタールにおよぶ敷地には、歴史ある邸宅や古い馬小屋、美しい草原や池もあり、イギリスの田舎らしいのどかな風景が広がっています。

この広大な敷地に、日本酒の醸造所とともに、日本酒の専門家の育成施設や、和食を提供する飲食店などを建設する計画です。費用は総額1500万ポンド、日本円でおよそ20億円にのぼります。順調に進めば、来年初めに醸造所が完成し、春ごろから本格的な生産を始める計画です。
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DOJIMA SAKE BREWERYのサイトより

ヨーロッパでも市場拡大のチャンス



ヨーロッパでは現地生産をするほど、日本酒の需要の伸びが見込めるのでしょうか。いま世界では、和食ブームの影響もあって日本酒の消費の拡大が続いています。

財務省の貿易統計によりますと、日本酒の輸出額は6年連続で過去最高を更新していて、去年は140億円と10年前の2005年からおよそ2.6倍に増えました。輸出先のトップはアメリカで、およそ50億円と全体の35%余りに達しています。次いで、香港や韓国などアジア地域が上位を占めています。

一方、アメリカやアジアに比べるとヨーロッパで日本酒はそれほど浸透していません。輸出額がもっとも多いイギリスでも、その額は2億6000万円と、アメリカの20分の1ほどにとどまっています。フランスやイタリアなどワインの一大産地を抱えているヨーロッパで食事にあわせる酒はワインが主流だからです。
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ただ、ヨーロッパでも変化が見え始めています。イギリスではロンドンで開かれる世界的に権威のあるワインの品評会に9年前から日本酒部門が設けられ、ワインに詳しい人の間で認知度が徐々に高まり始めています。

また、ロンドンにあるワインの教育組織では、おととしから日本酒講座がスタートしました。ヨーロッパ全体を見渡しても、日本酒を提供する飲食店が増えていて、今後、市場の拡大が期待されているのです。

堂島麦酒醸造所のイギリス法人でマーケティングの責任者を務める橋本夫妻の長女の橋本久美子さんは、「ヨーロッパはまだ新しい市場なのでチャンスがある。ここで造った日本酒を皆さんに楽しんでもらいたい」と意気込みを語っています。
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イギリスの地元も後押し



今回のプロジェクトに対し、地元では歓迎ムードが高まっています。去年12月に建設予定地で開かれた住民説明会では「長い間、使用されていなかった場所の開発は、地域にとって重要だ」とか「多くの人が醸造所の見学などに訪れてほしい」など、醸造所の建設による経済効果や地域の活性化に期待する声が大勢を占めました。

今月3日に現地の役場で開かれた委員会でも「EU=ヨーロッパ連合からの離脱がイギリス経済に与える影響が懸念される状況の中で、大規模な投資を行い、雇用も創出するすばらしい事業だ」などと歓迎する声が相次ぎました。
そして、全会一致で、醸造所の建設など一連のプロジェクトを進めることを許可しました。

委員会のあと、社長の橋本良英さんが「日本酒文化を発信し、イギリスに根づかせたい。その使命をきょう頂いた」と、いくぶん緊張した面持ちで話していたのが印象的でした。
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ヨーロッパで日本酒普及なるか



関心が徐々に広がりつつあるとはいえ、イギリスをはじめとするヨーロッパでの日本酒の取り扱いは、高級和食レストランや日本人向けのスーパーマーケットなど一部に限られているのが現状です。日本酒をウオッカのようなアルコール度の強い蒸留酒と誤解している人も依然として多く、そのイメージの払拭(ふっしょく)には、認知度をさらに高めていく必要があります。

堂島麦酒醸造所は、アメリカやアジアで人気がある吟醸酒と純米酒だけでなく、醸造の最終段階で水の代わりに酒そのものを使って仕込む、甘くて濃厚な日本酒も造りたいとしていて、ヨーロッパの人たちにどこまで受け入れられるのか注目です。
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普及に向けたもう1つの課題は、日本酒の原料となる水と酒米の調達です。イギリスの水は日本酒に適さない硬水のため、堂島麦酒醸造所では現地の硬水を軟水に変える装置を使う計画です。また、イギリスで調達できない酒米は、日本やアメリカなどから輸入する方針です。

こうした日本での生産に比べて余分にかかるコストをどう抑え、消費者が購入しやすい価格を実現できるかも、重要なポイントになると思います。

建設許可が下り、いよいよ動き出すことになった日本の酒造会社によるヨーロッパでの日本酒の現地生産。日本酒の専門家育成も含めた、地道で息の長い取り組みによって、イギリス発の日本酒を世界に広げたいという夢はかなうのか。その挑戦を今後も見つめていきたいと思います。


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ロンドン支局

下村 直人 記者

平成11年NHK入局
津局を経て経済部
平成25年からロンドン支局

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NHK NEWSWEB
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