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食と農

ウナギロンダリング 闇ルートを追う

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WEB特集
12月13日 22時13分
日本人が大好きなうなぎ。実は、私たちが口にしているものは、密輸を経たものである可能性が少なくありません。最近、うなぎが高いと感じることが多いと思います。ある老舗のうなぎ店では、うな丼の並が3300円。10年前に比べて1400円値上がりしました。価格の高騰の要因のひとつは、ニホンウナギの生息数の大幅な減少で、おととし、国際機関から絶滅危惧種にも指定されました。ただ、業界に詳しい関係者から、価格高騰のもうひとつの要因として指摘されているのが、ウナギの稚魚をめぐる「不透明な国際取引」です。ウナギは、どこで水揚げされ、どのようなルートで私たちのもとに届いているのか。NHKでは取材班をつくり、国際的な闇の流通ルートを徹底追跡しました。その結果、闇のルートの一端が見えてきました。あわせて、背景には、夏場の「土用の丑(うし)の日」が関係していることも見えてきました。

香港の謎



私たちが食べているうなぎのほとんどが、ウナギの稚魚「シラスウナギ」を養殖したものです。その「シラスウナギ」を、日本が最も多く輸入しているのが香港です。

私たちは、まず、香港有数の漁港を訪ねました。活気づく港では、ヒラメやワタリガニなどが水揚げされていましたが、どこを探しても、シラスウナギの姿はありません。香港の多くの漁師が加入している団体に尋ねると、「香港では、シラスウナギの漁は行われていない」といいます。

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香港にある7つの市場を管理する団体も、「シラスウナギが取り引きされた記録はない」といいます。香港ではとれず、流通もしていないシラスウナギは、いったいどういう経緯で、香港から大量に日本に輸出されているのか。

香港の“再輸出”業者


取材を進めると、シラスウナギの“再輸出”を行っている施設が、香港の中心部から車で40分ほどの場所にあるという情報を得ました。

“再輸出”とは、ほかの地域から届けられたシラスウナギを日本などへ再び輸出することです。「立て場」と呼ばれるその施設は、全体が、高い塀に囲まれ、外部からの侵入を警戒しているような印象でした。

私たちはこの施設を運営する会社の社長に接触し、社長は場所を特定しないことなどを条件に取材に応じました。

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この日、水槽の中には、中国大陸に送られるという別の種のシラスウナギが大量に泳ぎ、日本向けのシラスウナギも届き次第、この施設から輸出するといいます。

そして、社長は「1袋で、1キロ5000匹。2袋をひと箱に詰めて、東京や福岡、名古屋などに空輸している」と話しました。では、これらのシラスウナギは、どこから運び込まれているのか。
尋ねたとたんに社長は言葉を濁しました。「周辺の地域から、としか言えない」。

シラスウナギを持ち込む業者が、どこでとり、どんなルートで運んできたのか、自分は知らないし、あえて業者に尋ねない、と言います。
「シラスウナギが届いたら、注文に応じて日本へ送る。私は、私の仕事をやるだけだ」。

“輸出量逆転”何を意味?


シラスウナギはどこから来ているのか。その手がかりとなる数字が日本の貿易統計にありました。

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日本への輸出が最も多い香港。しかし、2007年以前は、ほとんど輸出を行っていません。一方、それまで大量に輸出していたのは台湾でした。輸出量が入れ代わった2007年。この年に起きたのは、台湾が資源保護のために行った「輸出の禁止」です。この数字の入れ替わりに意味があるのではないか。私たちは、台湾で取材を進めました。

台湾は11~12月に最盛期


台湾北東部の宜蘭県にある漁港は、11月にシラスウナギ漁が解禁され、漁を行う人たちでにぎわっていました。海岸には台湾各地から集まった人たちがテントを張り、波打ち際で網を引いては、シラスウナギを集めていたほか、夜になると、100隻余りの漁船が競うように海に出て、大きな網でシラスウナギの漁を行っていました。

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漁を終えたひとりに、シラスウナギを見せてもらいました。1袋に300匹から400匹。この日の取引価格だと、1袋で日本円にして、およそ10万円。この10年で相場が7倍に高騰しているといいます。

水揚げ後“行方不明”に


水揚げされたシラスウナギは、仲買人の自宅に買い集められていました。この家では、仲買人の女性のひとりが「数え歌」を歌いながら、シラスウナギを買い取っていました。歌うのは、数え間違いを防ぐためだといいます。
私たちは、仲買人の女性に、集めたシラスウナギの行き先を尋ねました。ところが、仲買人の女性の答えは、「売ったあとのことは知りません」。買い手が誰かを探りましたが、確かめることはできませんでした。
水揚げされたシラスウナギは、この時期、台湾からの輸出が禁止されているため、台湾内で育てて流通させることになっていますが、仲買人から先の行き先を、たどることができなくなってしまいました。

“消えた”シラスウナギは


私たちは、台湾のウナギ業界に詳しい人物を訪ねました。
ウナギの養殖業者や流通業者で作る団体の元代表、郭瓊英さんです。郭さんは驚くべき事実を教えてくれました。示されたのは、業界団体で調査した2012年のデータ。漁獲されたシラスウナギが3.2トンあるのに対し、台湾で養殖に使われた量はわずか0.8トン。本来なら台湾内で流通しているはずのシラスウナギの大部分が行方不明になっているというのです。

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郭さんは、“消えた”シラスウナギの多くは海外に密輸されているといいます。「どのくらいの業者が密輸に関わっているか、私たちも知るよしがないが、多くの人がやっているのは明らかだ」。

「密輸」の証言を得る


さらに取材を進め、密輸に関わっている人物にようやくたどり着きました。匿名を条件に取材に応じた男性は、密輸に関わっていることを認めたうえで、「台湾で水揚げされ、行方不明となったシラスウナギのほとんどが、日本に輸出されている」と証言しました。
そして、「日本人のほうから、電話で交渉してくる。取引が決まれば、台湾から香港に送り、香港から日本へは正式な輸出品として売っている」と話し、台湾からの輸出が禁じられているにもかかわらず、シラスウナギを求めてくるのは日本人だと明かしました。

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さらに、男性は複数あるという密輸ルートのひとつとして、中国大陸の近くにある台湾の離島「金門島」を経由して運び出す方法を具体的に話しました。「航空便でまず金門島へ行く。そこから船に乗り換えて、一般の観光客と同じように手荷物として持ち込み、中国の福建省アモイまで行く。アモイに運んだものは陸路で香港へ。そこから日本へ輸出している」。

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男性が証言した“金門島ルート”


男性の証言を検証するため、金門島へ向かいました。中国大陸までわずか2キロ。かつては、軍事対立の最前線でしたが、最近は交流が盛んになり、大陸側から年間30万人以上が訪れるようになりました。
私たちは、男性の証言どおり、船を使って荷物を運ぶ際、チェックをうけることはないのか、確かめることにしました。シラスウナギに見立てた樹脂製の擬似餌を袋に入れ、少量の水を加えます。乗船のルールに反しない方法で、台湾のスタッフが運びます。
ターミナルには、預け入れ荷物に生き物を入れることを禁止するという表示がありましたが、手荷物の場合、特に制限はないとのことでした。乗客の手荷物は、X線の検査装置を通します。1時間余り観察を続けましたが、乗客の荷物を開けて検査する様子は確認できませんでした。私たちの荷物も開けられることなく乗船することができました。

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この方法で、密輸業者は、1回につきおよそ20キロ、数千万円に相当するシラスウナギを持ち込むといいます。今回の取材では、密輸に関わっている男性の証言どおり、厳しいチェックはありませんでした。

台湾の空港で密輸の摘発も


私たちが取材を進めていた先月26日、シラスウナギの密輸の氷山の一角が明らかになりました。台湾北部の空港で、32万匹6000万円相当のシラスウナギが摘発されたのです。当局によると、香港行きの飛行機の預け入れ荷物から発見されました。

ウナギ“ロンダリング”


かつては漁が盛んな台湾から日本に直接輸入されていたシラスウナギ。
2007年に資源保護のため台湾からの輸出が禁止されたあと、代わりに出来たのが「台湾から香港を経由するルート」です。
台湾から香港への輸送は「密輸」になります。香港から日本へは、合法的な輸入品として入ります。いわば「ロンダリング」とも言われる事態が起きています。

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日本に輸入されているシラスウナギのおおむね8割は、香港から輸入されています。「密輸」を経たものがどのくらいになるのか、闇取引の全体像はわかりませんが、私たちが日本で口にしているウナギの中に、密輸を経たものが含まれている可能性が少なくないという状況です。

国際社会からも厳しい目


東アジアでのニホンウナギの不透明な取引には、国際社会からも厳しい目が向けられています。
ことし10月には、野生生物の保護を図るワシントン条約の締約国会議で、EUが不透明な国際取引が乱獲を招いているとして実態調査を提案し、調査を行うことが決まりました。調査の結果によっては、3年後に開かれる次の締約国会議で、ニホンウナギの国際取引が厳しく規制される可能性もあります。

背景にある「土用の丑の日」


闇取引はなぜ横行し続けるのか。そして、なぜ、日本側が求めるのか。取材を進めると、日本で最も多くウナギが消費される、土用の丑の日と関係していることがわかってきました。

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日本の、去年1年間の蒲焼きへの消費金額を表したグラフ見ると、7月から8月の土用の丑の日の前後に、年間消費量の3分の1が集中しています。

次に、日本での養殖のスケジュールを見てみます。最近多くの養殖業者が採用している、養殖期間が短い「半年間」で育てる方法では、土用の丑の日までに出荷しようとすると、稚魚を、1月上旬までに仕入れる必要があります。
これに対し、日本でシラスウナギがとれる最盛期は、1月から2月で間に合いません。

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一方、台湾の最盛期は、11月から12月で、日本で養殖を開始したい1月上旬までに手に入るのです。ニホンウナギは太平洋のマリアナ諸島沖で生まれた後、黒潮の流れにのって、11月以降、台湾、中国、日本の順にたどり着きます。この時間の差が「香港経由の稚魚」に注文が多く集まる理由になっていました。

土用の丑の日 見直す動きも


土用の丑の日に向けて流通や消費が集中するいまの状況を見直そうという動きも出てきています。

三重県松阪市でウナギ養殖場を経営する野口茂司さんは、これまで11月から12月にかけて香港からのシラスウナギを多く仕入れてきました。しかし、仕入れ値は、この5年間で3倍以上になり、値上がりの大きさに頭を痛めています。野口さんは、私たちにノートを示しながら、「このときは、1億3900万円を振り込めときた。あまりの値段の高騰ぶりに、ついていけない」と話しました。

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こうした状況から抜け出したいと、野口さんは、ことしから養殖の開始を、一部、稚魚の値段が下がる2月から3月の時期に遅らせました。このやり方だと、土用の丑の日までに出荷できなくなるため、売値は2割ほど下がりますが、仕入れ値も下がるため、採算は取れると見込んでいます。野口さんは、「このやり方のほうが、安心してゆっくりと養殖できるようになる」と話しています。

土用の丑の日にこだわる営業をやめた専門店もあります。静岡県三島市でうなぎ専門店を営む関野忠明さんは、以前は土用の丑の日に、ふだんの3倍の量のウナギを仕入れていました。
しかし、関野さんは3年前から、取り扱うウナギの量を増やすことをやめ、店内でPRすることも控えています。土用の丑の日の前後は、仕入れ値が2割ほど高くなるにもかかわらず、品質が落ちるものが少なくないと感じたためです。

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今、関野さんの店では、品質的に納得できるウナギだけを提供することにしています。そのためにウナギの仕入れを減らし、以前は夜8時までだった営業時間を大幅に短縮しました。
ウナギの資源が減少する中、伝統の食文化を守るにはウナギの消費のしかたを見直す必要があると考えたからです。
関野さんは「一匹一匹のウナギを大切にすることが、絶滅危惧種を売る店の責任ということにもつながると思う。日本の伝統料理であるうなぎの蒲焼きを、後世に伝えていけるように取り組みたい」と話しています。

問われる最大消費国・日本の対応


今回の取材の中で、ウナギ専門店や養殖業者の中には、土用の丑の日に向けて出荷が集中する現状に、問題意識を感じている人が複数いました。業界団体の幹部も、「業界としては土用の丑の日に高まる需要に応える必要がある」としながらも、不透明な国際取引をこのまま放置できないことは認識していて、「襟を正さないといけないと思う」と話しています。
水産庁も、同じような問題認識を持ち、台湾などとの国際協議の中で稚魚の取引の正常化を模索する必要性があることを認めています。

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今回、私たちが追跡した「闇ルート」については、多くの関係者が問題だと認識しながらも、自分たちで改善できない状態に陥っているというのが率直な取材実感です。

しかし、漁獲や流通の実態を透明化したうえで、資源管理に取り組まなければ、ニホンウナギを枯渇させてしまうおそれがあります。日本はかつて、ヨーロッパ産のヨーロッパウナギをたくさん消費したことで、資源を枯渇させ、国際取引の規制につながった苦い経験があります。 日本は、世界最大のウナギの消費国として、問題の解決に真正面から本気で取り組めるのか、国際社会から厳しく問われています。

科学文化部
黒瀬総一郎 記者

社会番組部
柴淳一
ディレクター

台北支局
田島則之 記者

香港支局
吉岡拓馬 記者

広州支局
松田智樹 記者

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NHK NEWS WEB

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